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マイコプラズマ肺炎 (オリンピック病)

[2024.08.25]

マイコプラズマ肺炎が8年ぶりに大流行しているとのニュースが流れています。

マイコプラズマ肺炎は別名オリンピック病と言われており、4年ごと夏季オリンピックの年に流行すると言われています。

4年前は新型コロナ流行により多くの人が感染対策をしていたこと、東京オリンピックの開催時期もズレたことなどから流行せず、今年はパリオリンピックが開催され、マスクをしない人が増えたことなどから流行してしまった可能性が考えられます。

 

マイコプラズマとは

細菌の一種です。細胞壁をもたず、細胞やゲノムが非常に小さい事から細菌とウイルスの中間のような性質を持つのが特徴のひとつです。

細胞壁がないため細胞壁合成阻害薬であるβ-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)抗菌薬が効きません。

 

マイコプラズマ肺炎の特徴

マイコプラズマ肺炎は市中肺炎(市中で生活している人に発症する肺炎)の中で肺炎球菌、インフルエンザ菌に次いで3番目に多い肺炎です。

抗菌薬の選択が異なる事から、市中肺炎は定型肺炎(細菌性肺炎)と非定型肺炎に分けられますが、マイコプラズマ肺炎は非定型肺炎の中では最も多い肺炎となります。

 

マイコプラズマ肺炎は比較的若年・壮年者に多く、10~30代が全体の7割を占めます。

症状としては38~39℃の高熱、コンコンという痰のからまない咳(乾性咳嗽)が特徴です。

症状が比較的軽いケースも多いため「歩く肺炎」とも呼ばれます。

潜伏期間は1~4週(通常2~3週)であり、インフルエンザや新型コロナと比較すると長めです。

 

市中肺炎における細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別は下記の1)~6)であり、これらの項目を用いて鑑別を行う事が推奨されています※。

 1)年齢60歳未満

 2)基礎疾患がない、あるいは軽微

 3)頑固な咳がある

 4)胸部聴診上所見が乏しい

 5)迅速診断法で原因菌が証明されない

 (マイコプラズマ抗原または遺伝子検査陽性を除く)

 6)末梢血白血球数が10,000/μL未満である

 

また、胸部画像所見も定型肺炎と異なります。

胸部CTでは①気管支壁血管周囲間質肥厚、②小葉中心性あるいは細葉中心性粒状影、③すりガラス影がマイコプラズマ肺炎で有意に高い所見です※。

CTほど詳細な鑑別はできませんが、胸部レントゲンでも定型肺炎なのか非定型肺炎なのかを鑑別することができます。

定型肺炎は葉間を越えないの画像所見が特徴的ですが、非定型肺炎は葉間をまたいで陰影を認めます。

採血検査と違ってレントゲン検査はすぐに結果を確認することが出来るため、治療方針を決める上で非常に有用です。

 

咽頭拭い液で検査するマイコプラズマ迅速診断キットや採血で検査するマイコプラズマ抗体で陽性であれば確定診断をつけることができます。

マイコプラズマ迅速診断キット(抗原)は15~20分で検査結果を得ることができますが、検査感度は抗体検査と比較してやや低いという欠点があります。

抗体検査にはPA法とCF法があります。

PA法:感染初期に産生される血清中のIgM抗体という抗体を測定します。発症から1週目ほどで抗体価が上昇し始め、2週目から6週目に数値が最も高くなり、その後急速に消失します。

CF法:血清中のIgG抗体という抗体を測定します。IgG抗体は発症の7日目から10日目頃に上昇しはじめ、数値が高い期間はIgM抗体より長く続きます。

2回の採血(ペア血清)で判断する場合は1回目の抗体価の4倍以上の上昇で陽性と判断します。

1回の採血で判断する場合はPA法が320倍以上、CF法が64倍以上で陽性と判断します。

 

マイコプラズマ肺炎の治療

マイコプラズマ肺炎を疑った際の第一選択薬は「マクロライド系」「テトラサイクリン系」であり、第二選択薬は「レスピラトリーキノロン」です※。

近年マクロライド耐性のマイコプラズマ肺炎が出現していますが、マクロライド耐性の場合でもテトラサイクリン系の方が解熱効果・除菌効果ともにレスピラトリーキノロンより良い事が証明されています※。

肺炎球菌の治療などに使われる「βラクタム系」の抗菌薬は効果がないため、適切に抗菌薬を選択する必要があります

重症例ではステロイドを併用して治療することもあります。

 

餅は餅屋へ

今回の院長ブログで「※」のマークがついている部分は「成人肺炎診療ガイドライン2024」からの引用です。

医師の世界ではこのようなガイドラインが数多く存在します。

日本呼吸器学会に所属している医師であれば、呼吸器系のガイドラインは自動的に配布され、ガイドラインの内容を学会員用HPから無料でダウンロードすることもできますが、所属していない医師は本屋さんで購入しないと読むことが出来ません。

2019年~2024年だけでもこの写真のように多くのガイドラインが日本呼吸器学会から発刊されています。

医学書の値段は結構高く、「成人肺炎診療ガイドライン2024」は4,950円もします。

呼吸器学会に所属していない医師が呼吸器系のガイドライン全てに目を通すのは金銭的にも時間的にも現実的ではありません

逆に自分自身も専門外領域のガイドラインをカバーできていません。

「餅は餅屋」ということわざがある通り、病気はその専門性が高い先生を選んで診てもらう方がより良い診断と治療につながります。

なかなか症状が改善しない時は医師の専門性を調べた上で受診先を選ぶことをお勧めします。

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