クラミジア肺炎
院長は呼吸器内科医であるため肺炎患者を診る機会はもともと多いのですが、ここ数ヶ月「こんなに肺炎の患者さんっているの?」と思うくらい肺炎の患者さんを多く診療するようになりました。
先週の院長ブログで記載したように、マイコプラズマ肺炎が日本中で大流行していることが一因だと思います。
それ以外に当院ではクラミジア肺炎も多く見かけます。
2024/8/31の時点では国立感染症研究所の報告で流行が確認されていため、たまたま当院の周辺で多いだけなのかもしれませんが、今回はクラミジア肺炎について記載します。
クラミジアとは
細胞内でのみ増殖する偏在性細胞内寄生微生物です。
クラミジア(Chlamydia)にはいくつか種類がありますが、これらのうち肺炎クラミジア(C. pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(C. trachomatis)、オウム病クラミジア(C. psittaci)は人に感染して肺炎を起こすことがあります。
1999年に提唱された新分類ではクラミジア・トラコマチス以外はChlamydophila属に再編されていましたが、2010年頃からは再編が不要であるという議論がされており、再度Chlamydiaという表記に統一される動きがでています。
クラミジア肺炎の特徴
感染症法では、人獣共通感染症で症状の強いオウム病は病態や対応が異なるため、「クラミジア肺炎(オウム病を除く)」と「オウム病」の2疾患として定義を分けています。
C. trachomatis肺炎
C. trachomatis肺炎の発生は新生児、乳児期にほぼ限られます。新生児への感染はC. trachomatisに感染した母体からの出産の際に起こります。
成人では、性感染症として咽頭や性器に感染することが知られていますが、免疫低下時以外は肺炎にいたることは極めて稀とされています。
C. pneumoniae肺炎
C. pneumoniaeは市中肺炎の約1 割に関与すると言われています。
この病原体に感染した人の気道に存在していて、咳をきっかけに飛沫として周囲環境へばらまかれ、これを体内に取り込むことで感染が成立します。
潜伏期間は3~4週で、臨床的にはマイコプラズマ肺炎と鑑別することが難しい肺炎です。
マイコプラズマ肺炎と異なり、小児だけでなく、高齢者にも多く発症します。
家族内感染や施設などの集団内流行もしばしば見られます。
感染既往を示すC. pneumoniae IgG 抗体保有率は小児期に急増し、成人で5〜6 割と高いですが、この抗体には感染防御の機能はなく、抗体保有者も何度でも感染してしまいます。
オウム病
オウム病クラミジア(C. psittaci)が原因で起きる肺炎で、通常はオウムなどの鳥から感染する人獣共通感染症です。
インコ、オウム、ハト等の糞に含まれる菌を吸い込んだり、口移しでエサを与えることによって感染します。
クラミジア肺炎の診断
咽頭ぬぐい液などからの病原体分離は困難なため、酵素抗体法(属特異抗原検出キット)、DNA 診断法(PCR)などが用いられます。
一般的な診療所では血清中の抗C. pneumoniae抗体を証明する抗体価測定法が用いられています。
初感染では感染後3週以降にIgMが上昇し、次いでIgG、IgAが遅れて上昇します。IgMは通常数ヶ月で消失しますが、IgG、IgAは数ヶ月から数年で低下していきます。
再感染ではIgMは上昇せず、IgG、IgAが比較的急速に上昇します。
このように抗体価が変化することから、血清診断では原則としてペア血清での有意な抗体価上昇で診断します。
いずれの検査もすぐには結果が出てこないため、マイコプラズマ肺炎と同様にすぐに結果を確認することができる胸部画像検査で非定型肺炎を疑うことが重要です。
クラミジア肺炎の治療
クラミジアはβラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)やアミノグリコシド系の抗菌薬は効きません。
第一選択はテトラサイクリン系ですが、小児の場合には歯牙黄染や骨の発育障害を起こしてしまう可能性があるためマクロライド系を選択する必要があります。
第二選択はレスピラトリーキノロンです。
器質化肺炎をきたした場合にはステロイドの併用も考慮する必要があります。
理想と現実
日本は保険診療があるため、海外と比較して非常に安価に医療を受けることができます。
一方、保険診療による制限があるため、クラミジアの診断を確実なものとするためにIgM抗体、IgG抗体、IgA抗体を併せて検査したとしても、医療機関は主なもの1つの検査分しか算定することができません。
抗体検査と核酸検出(ウイルス・細菌核酸多項目同時検出を含む)などを併せて検査した場合も主なもの1つの検査分しか算定することができません。
患者さんから支払われる検査費用は1~3割だけであり、保険で返礼されてしまう検査項目が多ければ多いほど医療機関の赤字が膨らんでしまいます。このため、一般の医療機関では抗体検査のうちどれか一つを選択し、症状や画像所見と組み合わせて臨床的に診断せざるを得ません。
診断を確実なものとするためには複数の検査を組み合わせるのが理想的なのかもしれませんが、理想と現実は違います。
また、耐性菌を増やさないようにAccess抗菌薬(一般的な感染症の第一選択薬、または第二選択薬として用いられる体制下の懸念の少ない抗菌薬で、全ての国が高品質かつ手ごろな価格で広く利用できるようにすべきもの)の使用比率を増やしたいという意図から「抗菌薬適正使用体制加算」が2024年から新設されています。
しかし、極論を述べると「定型肺炎と非定型肺炎を適切に見極めて抗菌薬を選択する」施設より、「原因菌は何であれとりあえずAccess抗菌薬を処方する」といった施設の方が、同じ疾患を治療した際に診療報酬が高くなることになりかねない政策でもあります。
この点も理想と現実は違います。
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