ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについて
医師の役割の一つとして「新しい医学情報を学び、得た知識を患者さんに解りやすく伝えること」があると私は考えています。
本日は日曜日でしたが、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の勉強会に参加してきました。EGPAは難病に指定されている希少疾患であるため、この病気について院長ブログで取り上げても対象となる患者さんが現時点の当クリニックにはいません。
このため、今回のブログと6月の「いとしんぶん」はヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについて記載してみました。
★この機会を逃すと9~10万円を損します
HPVワクチンは性経験前の接種により子宮頸がんの発症を高率に抑えることが出来るため、小学校6年生~高校1年生に相当する女性を対象に定期接種が行われています。
しかし、HPVワクチンの公費によるキャッチアップ接種は2024年度末(2025年3月末)までです。
HPVワクチン接種は合計3回であり、完了するまでに6ヶ月間かかるため、2024年の9月末までに1回目を接種する必要があります。
公費で接種できるHPVワクチンはサーバリックス(2価ワクチン)、ガーダシル(4価ワクチン)、シルガード9(9価ワクチン)の3種類があります。決められた間隔をあけて、同じワクチンを3回接種する必要があります。
(※シルガード9は15歳未満の場合スケジュールが異なります)
HPVワクチンは自費でも接種することができます。
しかし、自費でHPVワクチンを接種をしようとすると、サーバリックス、ガーダシルは3回接種で5~6万円、シルガード9は9~10万円かかります。
シルガード9は予防できるHPVの数が他の2つのワクチンよりも多い事から、現時点で接種する場合はシルガード9を選択すべきと考えられ、当院ではシルガード9での接種をお勧めしています。
どのワクチンでも接種券があれば費用負担なしで受けることができるため、今回のキャッチアップ接種の機会を逃すと5~10万円の損をすることになります。
★接種対象は?
次の2つを満たす方が対象となります。ご家族(娘さんやお孫さん)に対象となる方がいる場合には2024年の9月末までにこの情報を伝えてHPVワクチンを接種するかどうかを検討してください。
- 平成9年度生まれ~平成19年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日)の女性
- 過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない
★HPVワクチンは男性にも補助があります
子宮頸がん以外にも、陰茎がんの36%、中咽頭がんの50%、肛門がんの93%がHPVウイルスによるものとされているため、 2024年度から男性に対するHPVワクチン接種も練馬区で助成されることになりました。
ただし、男性に助成が効くのは4価ワクチンのみです。
機会を逃して自費で接種することになった場合は5~6万円の損をすることになります。
HPVワクチンの接種券は申し込みをした人にしか発送されないので、注意してください。
★助成対象者は?
・接種日現在、練馬区に住民登録があり、小学校6年生(12歳となる日の属する年度の4月1日)~高校1年生相当(16歳となる日の属する年度の3月31日)の男性
・令和6年度は、平成20年4月2日から平成25年4月1日までに生まれた男性の方
★なぜ男性の適応は4価ワクチンだけなのか?
男性に関しては子宮頸がんの主な原因となる16/18型と尖圭コンジローマの原因となる6/11型4つをカバーすれば十分と考えられているからです。
★損する金額はワクチンの接種費用だけではない
子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2800人が死亡しています。
患者数・死亡者数は近年増加しており、50歳未満の若い世代の子宮頸がん発症数が増加していることが問題となっています。
子宮頸がんの95%以上はHPVというウイルス感染が原因です。
HPVの感作経路は性的接触が主であり、性交渉の経験がある女性のうち50~80%はHPVに感染していると推測されています。HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は数年~数十年と考えられています。
定期的に子宮頸がん検診を受けて早めに前がん病変を見つけて治療することができれば良いのですが、進行して子宮頸がんになってしまうと高額な医療費がかかります。
医療費がかかるだけならまだしも、命まで失う事にもなりかねません。
発がん性HPVのなかでHPV16型、HPV18型は特に前がん病変や子宮頸がんに進行する頻度が高いと言われています。
このHPV16型、HPV18型の感染はHPVワクチンによって防ぐことができます。
しかし、これらのワクチンは既に感染している細胞からHPVを排除する効果は認められていません。
このため、初めて性交渉を経験して感染してしまう前にHPVワクチンを接種することが最も効果的な予防法となります。
実際、HPVワクチン接種を早期に取り入れたオーストラリア・イギリス・米国・北欧などの国々ではHPV感染や子宮頸がんの発生が有意に低下している事が報告されています。
HPVワクチンの初回接種は30分以上院内で経過観察する必要があります。
ご家族(お子さんやお孫さん)に対象となる方がいる場合は、夏休みなどを利用してHPVワクチンを接種することをお勧めします。