化学物質過敏症について
2024/6/22に発刊された集英社新書の「化学物質過敏症とは何か」を先日読了しました。
この本の著者は湘南鎌倉総合病院免疫・アレルギーセンター部長の渡井健太郎先生で、私が国立相模原病院に勤務していた頃に一緒に病棟で働いていた先生の一人です。
また、この本を編集した野呂さんに私が相模原病院の福冨友馬先生を紹介したことで「大人の食物アレルギー」という集英社新書が発刊されたという経緯もあったので、今回献本を送って頂きました。
私はアレルギーが専門であるため、化学物質過敏症は専門ではありません。
しかし、まれに化学物質過敏症の方が受診するので今回の院長ブログでは化学物質過敏症について「化学物質過敏症とは何か」を引用しつつ記載しました。
化学物質過敏症、アレルギー、不耐症の違い
過敏症、アレルギー、不耐症は患者さんだけでなく医師も混同してしまう事がありますが、正しく分けて対応する必要があります。
「アレルギー」は本来自分の体を守るはずの免疫が過剰に反応するように変化してしまい、逆に自分の体にとって害となる反応を起こしてしまう免疫学的反応の事であり、Gell and Coombs classificationでⅠ~Ⅳ型に分類されます。
原因物質はアレルゲンまたは抗原と呼ばれ、ある程度分子量が大きくないとこれらの免疫学的反応は起きません。
「不耐症」はある食物や薬剤を摂取したときに体内で完全に処理することができず、下痢や呼吸困難、皮疹など不快な症状を起こす病気です。
原因となる食物や薬物を分解・消化するのに必要な酵素などが不足しているために起きる点がアレルギーや過敏症と異なります。
乳糖不耐症、非ステロイド性解熱鎮痛薬(NSAIDs)不耐症、グルテン不耐症などがあります。
「化学物質過敏症」は多種多様な化学物質に過敏に反応して症状がでてしまう病気です。「脳過敏」という状況が起きているのですが、化学物質との因果関係が不明であることから最近は「環境過敏症」と呼ばれることもあります。
前述のアレルギーはある程度分子量の大きいアレルゲンが原因、不耐症は不足している酵素などが原因で起きるため、症状を起こすものをある程度特定することができます。
しかし、化学物質過敏症はなかなか原因を絞ることができません。
原因が特定できず「あれもダメ、これもダメ、医者もお手上げ」という状況の患者さんは化学物質過敏症の可能性があります。
化学物質過敏症は認知度が低い事から誤診や診断遅延が発生しやすい病気でもあります。
症状が発生してから診断がつくまでに病院を転々とすることが多いため、診断遅延は約10年といったデータも報告されています。
多種多様な症状が出現するためにどの診療科を受診したらよいのか解らないこと、患者さんが紹介状なしに受診先を求めてドクターショッピングをすること、診療に時間を要するため保険診療で化学物質過敏症を診ている医療機関が少ないこと、客観的診断基準と科学的根拠に基づいた治療法が確立されていないことなどが診断遅延につながる要因として考えられます。
今はどうにもできない問題
「化学物質過敏症とは何か」という本には問題提起も記載されていました。
前述のように化学物質過敏症は客観的診断基準と科学的根拠に基づいた治療法が確立されていないため、問診が中心で対処法などの説明に非常に長い時間を要します。
1日の診療時間は限られており、海外と比較して診療報酬が低い日本の医師は限られた時間の中でより多くの患者さんを診療しないと経営が成り立ちません。
診療に時間がかかった場合に指導料や診療報酬の上乗せが可能な疾患も存在しますが、化学物質過敏症はこうした上乗せが認められていません。
また、昨今は待ち時間が長いとすぐGoogle★1をつけられてしまうこともあり、化学物質過敏症のように「いつ終わるか解らない診療」を行っている医療機関は非常に少ないのが日本の現状です。
保険診療のみで化学物質過敏症の診療を成り立たせるのは難しいため、診療費を独自に設定できる自由診療で化学物質過敏症の診療を行っている医療機関もあります。
しかし、こちらは患者さんにとって長期にわたるかなりの費用負担を強いられてしまうという問題があります。
残念ながら個人個人や個々の医療機関レベルでは「今はどうにもできない問題」が山積みであるため、化学物質過敏症の患者さんが抱えている問題全てを解決させることは出ません。
しかし、この本を読むことは正しい理解、受診、解決の一助につながるのでおススメです。
