呼気一酸化窒素濃度と呼吸機能低下
以前呼気一酸化窒素濃度(FeNO)についてのブログを記載しましたが、今回はFeNO高値持続と呼吸機能低下についてのブログを書いてみました。
なぜ当院ではFeNOを測定するのか?なぜFeNOを目安に吸入薬の量を調節しているのか?ということを患者さんに解るように記載したつもりです。
喘息治療を行っている方は是非読んで下さい。
2型炎症とは?
2型炎症は、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者における重要な病態生理学的特徴とされています。
2型炎症がある患者は、吸入ステロイドによる治療に反応し、インターロイキン(IL)-5、IL-4、およびIL-13シグナル伝達を特異的に標的とするモノクローナル抗体による治療が奏功します。
2型炎症があると末梢血の好酸球高値やFeNO高値を示します。
これらの検査値が高いままの状態であるということは十分コントロールがついていないという事でもあります。
👆このイラストの原画を描いたのは院長の伊藤潤です
2型炎症高値が続くとどうなるのか?
2型炎症のコントロールが充分ついていない状況が長く続いてしまうと呼吸機能にどういった変化が現れるのか?ということを証明するために、2003年からデンマークのコホート研究によって約10年にわたって追跡調査が行われました。
これにより喘息やCOPDの肺機能低下と2型炎症の関係が明らかにされました。
Thorax. 2024 Mar 15;79(4):349-358. doi: 10.1136/thorax-2023-220972. PMID: 38195642
末梢血好酸球数と呼吸機能の変化
一般的に、気流閉塞を伴う呼吸器疾患では呼吸機能の変化として一秒間に呼出できる量である一秒量(FEV1)で評価を行います。
下の図は末梢血好酸球数とFEV1の経年的低下の関係を示した図になります。
下の図の上段は末梢血中の好酸球数が多いほどFEV1の経年的低下が大きく、ある程度以上だとプラトーに達する事が示されています。
COPD、持続的な気流閉塞のある喘息、分類できない気流制限、可逆性のある喘息、対照群の順にFEV1の低下が大きい事が下段の図で示されています。
また、持続的な気流閉塞のある喘息や分類できない気流制限では末梢血好酸球が高ければ高いほどプラトーに達せずに呼吸機能が低下することが示されています。
FeNOと呼吸機能の変化
下の図はFeNOとFEV1の経年的低下の関係を示した図になります。
下の図の上段はFeNOが高いほどFEV1の経年的低下が大きく、こちらは指数関数的にFeNOが高いほど呼吸機能が低下する結果になっています。
持続的な気流閉塞のある喘息、 可逆性がある喘息、COPD、分類できない気流制限、対照群の順にFEV1の低下が大きいことが下段の図で示されまています。
これらの結果から末梢血好酸球やFeNOが高い状態が続くと将来的に呼吸機能が低下してしまい、喘息患者では特に呼吸機能の低下が顕著であることが示されました。
FeNO測定
前述したようにFeNO測定をせずに喘息患者さんの治療薬を判断することがいかに良くないことであるのかがお判りいただけたと思います。
自覚症状が軽減していたとしてもFeNOが高値である場合は治療の手を緩めるべきではありません。
自己判断で治療薬を減らしたり、治療を中断してしまうと10年後、20年後の呼吸機能が低下して息苦しい状態から改善しなくなる可能性があります。
FeNO測定や呼吸機能検査を行わずに喘息の治療を続けている方は是非検査を受けることを検討してください。
一方、FeNO測定は非常に有用な検査にもかかわらず、開業医の間で充分普及していないのが実情です。
以前の院長ブログで示した通り、呼気一酸化窒素濃度測定検査(呼気ガス分析)は100点(=1000円)ですが、1回の測定にかかる費用はこの金額を超えてしまいます。
実は時間をかけて検査をしても検査費用だけでは赤字になる割に合わない検査なのです。
保険診療を行う医療機関は厚生労働省が決める診療報酬・保険点数にただただ従うしかないのですが、採算がとれなければ有用な検査でも普及する訳がありません。
このため、FeNO測定できる医療機関が増えてきているものの、利益よりも検査の有用性を重視する医療機関でないと検査することができないというのが現時点の日本における悲しい実情です。
呼気一酸化窒素濃度についてのブログは下記のリンクをご参照ください。