梅雨の時期は食中毒にご注意を!
6月に入り、どんよりとした空模様が続く梅雨の季節がやってきました。この時期、私たちが内科の診療で特に警戒を強めるのが「食中毒」です。気温と湿度が同時に上がる梅雨時は、細菌が爆発的に増殖する絶好の条件が揃ってしまいます。今回の院長ブログでは、梅雨時に知っておきたい食中毒の知識と、ご家庭で今日から実践できる予防法を詳しく解説します。
梅雨に食中毒が急増する理由
「食中毒といえば真夏」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、実際には6月の梅雨入り前後から、細菌性の食中毒は急激に増加し始めます。この時期特有の湿気と、20度から30度という温度は、食中毒を引き起こす細菌にとって非常に心地よい環境なのです。
特に近年は、梅雨入り前から真夏のような暑さになる日も増えています。私たちの体力が気圧の変化や湿気で奪われ、免疫力が少し低下している時期でもあるため、普段なら平気な少量の菌でも発症してしまうことが考えられます。お買い物後の食品の持ち運びなどには細心の注意を払う必要があるでしょう。
食中毒の主な症状と見極め方
食中毒の症状は、原因となる細菌やウイルスによって様々ですが、一般的には消化器症状が中心となります。
- 激しい腹痛や胃の痛み
- 何度も繰り返す下痢
- 吐き気や激しい嘔吐
- 37度から38度程度の発熱
これらの症状が出た場合、まずは安静にすることが大切です。しかし、中には単なる胃腸炎だと思い込んで放っておくと危険なケースもあります。特に、血便が出たり、意識が朦朧としたりする場合は、早急な医療機関への受診が求められます。
医師が教える食中毒菌の覚え方
私たちが医学生だった頃、数多くある食中毒の原因菌とその潜伏期間を覚えるために、語呂合わせを使っていました。それは「ブドウ売る美貌のサルもカエル大」というものです。このフレーズには、潜伏期間が短い順に重要な菌が並んでいます。
- ブドウ・・黄色ブドウ球菌(当日)
- ウル・・ウェルシュ菌(当日)
- ビ・・腸炎ビブリオ(翌日)
- ボ・・ボツリヌス菌(翌日)
- サルモ・・サルモネラ菌(翌日)
- カ・・カンピロバクター(数日後)
- エル・・エルシニア(数日後)
- 大・・大腸菌(O157など)(数日後)
この順番を知っていると、食事をしてから何時間後に症状が出たかを確認することで、原因菌の予測が立てやすくなります。もちろん、正確な診断には診察が必要ですが、ご自身で「何を食べたか、いつ食べたか」を整理する際の目安として活用してみてください。
食中毒を引き起こす主な細菌の特徴
ここからは、梅雨から夏にかけて特に注意が必要な原因菌について、一つずつ詳しく見ていきましょう。それぞれの特徴を知ることで、対策のポイントが見えてきます。
1. 黄色ブドウ球菌
潜伏期間は30分から6時間と非常に短く、食べてすぐに症状が出ることが特徴です。おにぎりやサンドイッチなど、人の手が多く触れる食品が主な原因となります。調理する人の手に傷があると、そこから菌が入り込みやすくなります。
この菌の厄介な点は、菌が作り出す「毒素」にあります。この毒素は熱に非常に強く、一度作られてしまうと再加熱しても壊れません。「火を通せば大丈夫」という過信が通用しないタイプの代表格といえるでしょう。
2. ウェルシュ菌
「作り置きのカレー」でよく発生するのが、このウェルシュ菌です。潜伏期間は6時間から18時間ほどで、酸素のない場所を好むという変わった性質を持っています。大鍋の底の方など、空気が届かない場所で爆発的に増殖します。
熱に強い殻(芽胞)を作るため、一度沸騰させた程度では死滅しません。煮込み料理を作った際は、常温で放置せず、小分けにして素早く冷やし、冷蔵庫に保管することが重要です。
3. 腸炎ビブリオ
刺身、寿司、生の魚介類で発生する夏の魚介類による食中毒の代表が腸炎ビブリオです。潜伏期間は8~24時間ほどで真水や加熱に弱いため、適切な管理・調理で予防できます。
4. ボツリヌス菌
空気のない環境で生育、増殖し、熱に強い殻(芽胞)を作るため加熱に強い菌です。潜伏期間は6~48時間ほどです。蜂蜜、真空パックの包装食品、発酵食品などに発生することがあるため、1歳未満の赤ちゃんには蜂蜜入りの飲料やお菓子などを与えないように注意が必要です。
5. サルモネラ
生卵、半熟卵、鶏肉が原因で発症します。潜伏期間は6~72時間ほどです。高齢者や乳幼児では重症化することがあるため、購入後の日数が経った卵や鶏肉はしっかりと加熱しましょう。
6. カンピロバクター
近年、最も発生件数が多いのがカンピロバクターです。主な原因は、鶏肉の加熱不足です。「鶏刺し」や「レバ刺し」だけでなく、バーベキューなどで生焼けの鶏肉を食べて発症するケースが後を絶ちません。
潜伏期間が2日から5日と長いため、数日前の食事を忘れた頃に症状が出るのが特徴です。また、稀に感染から数週間後に手足の麻痺などを起こすギラン・バレー症候群という神経の病気を合併することがあるため、注意が必要です。
7. エルシニア
日本ではあまり見られませんが、海外製の粉ミルク、加工乳などが原因となります。潜伏期間は半日~6日ほどです。冷蔵状態でも発育してしまいますが、加熱には弱いという特徴があります。
8. 腸管出血性大腸菌(O157など)
非常に強い毒素(ベロ毒素)を作る大腸菌です。潜伏期間は3日から5日程度で、激しい腹痛と水のような下痢、そして出血を伴う下痢(血便)が特徴です。小児や高齢者では、腎機能に障害が出る溶血性尿毒症症候群を引き起こすことがあり、生命に関わることもあります。
9. セレウス菌
チャーハン症候群として話題になっていた食中毒の原因菌です。熱に強い殻(芽胞)を作るため加熱調理後も生き残ります。炊いたご飯やチャーハン、パスタなどを室温で長時間放置すると増殖します。潜伏期間は0.5~6時間ほどです。症状は下痢型よりも嘔吐型が多く、多くは1両日で軽快しますが、まれに重症化することもあります。
ウイルスによる食中毒
食中毒は細菌だけでなく、ウイルスによっても引き起こされます。ウイルス性の場合は、食べ物からだけでなく、人から人へ感染が広がる点に注意が必要です。
ノロウイルス
冬に流行するイメージが強いノロウイルスですが、実は一年中発生しています。感染力が非常に強く、ごくわずかなウイルス量でも発症します。カキなどの二枚貝の生食が原因となるほか、感染者の嘔吐物などから二次感染することも多いです。潜伏期間は24~48時間ほどです。
アルコール消毒が効きにくいため、石けんと流水による丁寧な手洗いが最も効果的な予防策となります。原因検索のための検査は基本的に自費ですが、3歳未満や65歳以上など重症化リスクが高い方に対し、抗原検査やPCRが保険適応になることがあります。残念ながら当院では検査することはできません。
ロタウイルス
乳幼児に多く見られるウイルスで、白っぽい便が出るのが特徴的です。激しい下痢と嘔吐により、小さなお子さんはすぐに脱水症状に陥ってしまうため注意が必要です。潜伏期間は2~4日ほどです。
現在は予防接種が定期接種化されており、早期のワクチン接種が推奨されています。接種費用については当院の「予防接種」のページをご確認ください。
食中毒予防の3原則を徹底しましょう
食中毒を防ぐためには、厚生労働省も推奨している「3原則」を守ることが基本です。これらはご家庭での調理だけでなく、外食や買ってきたお惣菜を扱う際にも役立ちます。
1. 細菌を「つけない」
まずは手洗いの徹底です。調理の前、生肉や魚、卵を触った後、そして食事の前には必ず石けんで手を洗いましょう。包丁やまな板も、肉用、魚用、野菜用と使い分けるのが理想的です。難しい場合は、洗う順番を工夫し、生の肉を最後にするなどの配慮をしてください。
2. 細菌を「増やさない」
細菌の多くは高温多湿を好みます。買ってきた食品はすぐに冷蔵庫へ入れましょう。冷蔵庫の温度は10度以下、冷凍庫はマイナス15度以下に保つのが目安です。また、料理を作ったら、放置せずに早めに食べ切ることも大切です。
3. 細菌を「やっつける」
多くの細菌やウイルスは加熱によって死滅します。中心部までしっかり火を通すことが重要で、目安は75度で1分間以上の加熱です。電子レンジを使用する場合は、加熱ムラができないよう、途中で混ぜるなどの工夫をしてください。お肉の「生食」は、この時期は特に避けるべきでしょう。
梅雨時のお弁当作りのアドバイス
学生さんや会社員のご家族がいる方にとって、梅雨時のお弁当作りは悩みの種ですね。お弁当箱の中は、細菌にとって「高温多湿な小部屋」になりがちです。以下の点に気をつけてみてください。
- おかずは十分に冷ましてからフタを閉める(蒸気がこもると湿度が上がります)
- 水分の多い煮物は避け、汁気をよく切ってから詰める
- 練り物や半熟卵などは避け、しっかりと加熱したものを入れる
- 市販の保冷剤やお弁当用の除菌シートを活用する
電車通勤・通学をされる方も多いと思いますが、移動中の車内やカバンの中は想像以上に温度が上がります。職場や学校に到着したら、可能であれば冷蔵庫へ入れるようにしましょう。
アレルギーと食中毒の聞き分け
食中毒だと思って来院された方が、実は「食物アレルギー」だったというケースも臨床現場では少なくありません。
特に、食べてすぐにじんましんが出たり、咳き込んだり、息苦しさを感じたりする場合は、細菌による食中毒ではなくアレルギー反応(アナフィラキシー)の可能性が高いでしょう。当院はアレルギー科も標榜しておりますので、特定の食べ物で体調を崩しやすいと感じている方は、お気軽にご相談ください。「大人の食物アレルギー」のページも併せてご覧ください。
食中毒についてのよくある質問
Q1. 昨日の夜に作ったカレー、再加熱すれば絶対に大丈夫?
A1. ウェルシュ菌のように、熱に強い殻を作る菌もいます。一度増殖してしまった菌の種類によっては、再加熱だけで完全に安全とは言い切れません。見た目や臭いに少しでも違和感がある場合は、思い切って処分することも、健康を守るための的確な判断です。
Q2. 下痢止めの薬はすぐに飲んだほうがいい?
A2. 自己判断で下痢止めを飲むのは注意が必要です。下痢は、体の中にある悪い菌や毒素を外に出そうとする自然な反応です。無理に止めてしまうと、毒素が体内に留まり、症状を悪化させることがあります。まずは水分補給を心がけ、医師の診察を受けてから指示に従いましょう。
Q3. 家族が食中毒になったら、何に気をつければいい?
A3. タオルの共有を避け、ドアノブやトイレのレバーなどは薄めた塩素系漂白剤で消毒しましょう。二次感染を防ぐために、患者さんの看病をした後は特に念入りな手洗いを徹底してください。
院長より
食中毒患者、あるいは食中毒疑い患者を診断した場合には24時間以内に下記の図のように保健所に届け出る必要があります。
厚生労働省の資料から引用
食中毒が疑われたとしても当院は消化器内科でないため、対症療法しかできません。
食中毒が強く疑われる場合は消化器内科を受診することをお勧めします。
