肺炎球菌性肺炎
最近非常に多くの肺炎患者さんを診るようになりました。
マイコプラズマの大流行による影響が大きいと思いますが、クラミジア肺炎などそれ以外の肺炎患者さんも多く見かけます。
マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎に続いて、今回の院長ブログでは肺炎球菌性肺炎について記載します。
また、10月の「いとしんぶん Vol.17」は肺炎について特集しました。
内容が気になる方は院内に置いてある「いとしんぶん Vol.17」をお持ち帰りください。
肺炎とは
「肺実質(肺胞領域)の、急性の、感染性の、炎症」と定義されます。
このため炎症の場が肺実質であるか、経過は急性であるか、微生物によって引き起こされているかを判断することが重要です。
肺炎は原因菌の観点から細菌性肺炎(定型肺炎)と非定型肺炎に大別されます。
また、発病の場は患者背景、病態の観点から市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎に大別されます。
診療所で診るのは市中肺炎が大半です。
成人の市中肺炎患者を対象にしたシステマティックレビューにおける検出微生物の分離頻度は
・肺炎球菌(33~50%)
・インフルエンザ菌(7~16%)
・黄色ブドウ球菌、肺炎杆菌(4~11%)
・肺炎マイコプラズマ(4~11%)
・肺炎クラミジア
・ウイルス(30~45%)
といった状況です。
Shoar S, et al. Etiology of community-acquired pneumonia in adults: a systematic review. Pneumonia (Nathan) 2020;12:11.
肺炎球菌性肺炎
前述のとおり肺炎球菌性肺炎は最も多い肺炎です。
65歳以上の高齢者や基礎疾患を有する高リスク群の方は命取りになる事があります。
このため、65歳以上の方は肺炎球菌ワクチン接種による予防が推奨されています。
肺炎球菌のワクチンには莢膜多糖体型肺炎球菌ワクチン(PPSV)とタンパク結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)があります。PCVの方はT細胞を介するため、高い免疫効果が長期間期待できます。
ニューモバックス®(PPSV23)は5年毎に接種が必要ですが、65歳の方には1回目の接種のみ助成があります。
PPSV23に加えて、1度の接種で効果が長持ちするプレベナー®(PCV20)やバクニュバンス®(PCV15)を追加接種することで更に予防効果が高くなります。
未接種の方はご検討ください。
また、RSウイルス感染症後の2次感染では肺炎球菌性肺炎が起こりやすいことが知られています。
喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、心疾患、糖尿病などの基礎疾患があると悪化しやすく、喘息では2~3.6倍、COPDでは3.2~13.4倍、糖尿病では2.4~11.4倍、冠動脈疾患では3.7~7.0倍、うっ血性心不全では4.0~32.2倍も入院のリスクが増加する事が報告されています。
中村橋いとう内科クリニックのデジタルサイネージから抜粋
国や練馬区からRSワクチンの助成はまだありませんが、
国際的なCOPDのガイドライン(GOLD)や国際的な喘息のガイドライン(GINA)ではインフルエンザワクチン、新型コロナワクチン、肺炎球菌ワクチンよりもRSウイルスワクチンの方が推奨度が高い位置づけになっています。
このため、こういった基礎疾患を持っている60歳以上の方はRSウイルスの予防接種も並行して行う事をお勧めします。
肺炎球菌性肺炎の治療
β-ラクタム系の治療が推奨されています。
他の抗生剤でも効きますが、本邦ではマクロライド耐性が8割以上とされています。
ニューキノロン体性肺炎球菌は3.3%報告されていますが、増加傾向は認められていません。
鉄さび色の膿性痰、画像で定型肺炎を疑う所見、高齢者の場合は肺炎球菌性肺炎を疑った抗生剤選択をすべきです。
どの肺炎も抗生剤の選択が重要です。
このため毎回同じ抗生剤を処方する医療機関よりも、疑われる疾患に合わせて抗生剤を変更する医療機関の方が治療期間が短くなります。
自宅にあった抗生剤の残薬を内服するのは、その後の診断が困難になる悪手となりますので注意して下さい。
肺炎を疑った時にどうすべきか?
入院治療が必要な重症肺炎は診療所レベルでは対応ができません。
重症度の判断には下記のA-DLOPスコアが良く用いられます。1~2を満たすと中等症、3つ以上は重症と判断します。
高齢である時点で既に中等症となり、入院治療を検討すべき状態と判断されます。
ちょっと調子悪いな…という状況で診療所を受診し、肺炎が見つかったという程度であれば入院せずに治療可能かもしれません。
しかし、高齢者で、水分が取れず、受け答えが普段とちょっと違う時点で重症という診断となります。
ご家庭にいる段階で重症だと判断できる場合は、診療所を受診するのではなく、すぐに救急車を呼ぶべきです。
治療が早ければ早いほど救命率が上がるため、重症が疑われるような状況で診療所に受診することは遠回りになって救命率が下がってしまいます。
A-DROPスコア
A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上
D(Dehydration):BUN21mg/dL以上または脱水あり
R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)
O(Orientation):意識変容あり
P(Blood Pressure):収縮期血圧90mmHg以下
肺炎は予防が重要です。
肺炎球菌、RSウイルス、新型コロナ、インフルエンザなど予防接種などがある病原微生物に関しては予防接種をすることをお勧めします。
また、次から次へと感染が広がって家族内に看病する人が居なくなってしまうと一大事です。
家族が肺炎になってしまった場合には家庭内でもマスクをして食事の時間をずらすことをお勧めします。
これから冬にかけて肺炎が増えやすい時期であるため、お気を付けください。