スギ花粉症について
今月の「いとしんぶん」はスギ花粉症について特集しました。
患者さんに配る用の「いとしんぶん」は簡潔な内容に、院長ブログの方は引用した論文も掲載しつつ少し難しい内容についても記載するように変えています。
簡潔にスギ花粉症の治療について知りたい方は「いとしんぶん」を、少し詳しい内容を知りたい方は院長ブログをご覧になってください。
スギ花粉の飛散時期と飛散量
2024年のスギ花粉シーズンはほぼ例年並み、少し早めの時期にスタートしました。飛散量は例年より若干多いですが、昨年よりは少ないようです。
スギの花粉は初冬に冷え込みが厳しいと休眠打破が進み、休眠から目覚めた後は暖かいほど開花が早くなる傾向があります。2023年は年末に暖かい日があったため狂い咲きしており、少し早めにスギ花粉を感じた敏感な花粉症患者さんがいたと思います。
また、スギ花粉の飛散量は前年夏の気象条件が大きく影響します。気温が高く、日照時間が多く、雨の少ない夏は花芽が多く形成され、翌春の飛散量が多くなる傾向があります。2023年の夏は猛暑であったため、関東では2024年春のスギ花粉飛散量はやや多く、2023年春よりは少ないと予想されています。
スギ花粉症の治療
・抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン拮抗薬の内服
抗ヒスタミン薬は鼻水に、ロイコトリエン拮抗薬は鼻閉に効果があります。
抗ヒスタミン薬は口が乾いたり、眠くなったりする副作用があるため、副作用が出やすい人や車を運転する人は薬の種類をよくよく吟味する必要があります。
・点鼻薬(ステロイド、抗ヒスタミン薬、インタール)
内服薬で鼻症状が抑えきれない場合は点鼻薬を追加する必要があります。
ステロイドの点鼻や1日1回もしくは2回で済みますが、抗ヒスタミン薬やインタールの点鼻薬は効果持続時間が短いため1日4~6回使用する必要があります。
・点眼薬(ステロイド、抗ヒスタミン薬)
内服薬で眼症状が抑えきれない場合は点眼薬を追加する必要があります。
ステロイドの点眼薬は感染症の有無を確認した方が良いため、基本的には眼科で確認した上で処方してもらうことをお勧めします。
・舌下免疫療法
院長が発表した論文内容も含めて詳細は後述します。
・抗IgE抗体
重症の花粉症に限り適応になります。抗体製剤であるため、他の治療薬と比較して値段は高めです。
・レーザー手術
この治療は耳鼻科でないと行う事ができないため、当院では行う事ができません。
効果はレーザー治療を行った部分(鼻)のみであり、効果の持続期間は長くても3年程度です。
スギ花粉の舌下免疫療法
舌下免疫療法はアレルギーの原因となるアレルゲンを含む治療薬を舌の下に投与し、徐々に体をアレルゲンに治すことによって体質自体を変えていく治療法です。
効果がでるまでに時間がかかりますが、3~5年治療を継続した場合は治療終了後も年余にわたって効果が持続します。
本邦で保険適応になっている舌下免疫療法は現時点ではダニとスギのみですが、皮下免疫療法は他のアレルゲンでも適応があります。
スギ花粉飛散時期は症状が悪化する可能性があるため、開始時期はスギ花粉の非飛散時期に行う必要があります。
舌下免疫療法は花粉症を改善させるだけではない
舌下免疫療法は体質を変えていく治療であるため、ただ花粉症の症状を改善させるだけでなく、付随した他の効果もあります。
新規アレルゲン感作を抑制する
アレルギー体質の方はアレルゲンの暴露を受けることによって新規アレルゲンの感作数が年々増えてしまう事が知られています。しかし、ダニの舌下免疫療法を行って15年間追跡調査をしたところ、舌下免疫療法を行った群では他のアレルゲンの新規感作を低く抑えられることが報告されています。
上記の図で、SLIT3は3年間、SLIT4は4年間、SLIT5は5年間舌下免疫療法を行って中止した群、CONTROLSは舌下免疫療法を行っていない群です。
舌下免疫療法を行っていないと15年後には100%新規アレルゲンに感作されてしまいますが、舌下免疫療法を行った群では新規アレルゲンの感作が低く抑えられています。
(Marogna M, et al. JACI. 2010. DOI: 10.1016/j.jaci.2010.08.030)
また、この論文では3年間舌下免疫療法を行った群では治療中止後も5年間、5年間舌下免疫療法を行った群では中止後7年経過しても治療効果が続いていたという結果も報告しています。
舌下免疫療法は色々なアレルゲンに感作されるよりも前、若いころに行う方が良さそうです。スギ花粉症は丁度受験シーズンに悪化するので、受験を控えている学生さんは数年前から舌下免疫療法を行う事をお勧めします。
喘息症状も改善する
スギ花粉合併喘息の患者に舌下免疫を行う事でスギ花粉の時期の喘息増悪を抑えることができることを埼玉医大の永田先生のグループが報告しています。
(Kikkawa S, et al. APJAI 2021. DOI: 10.12932/AP-200219-0499)
そして、スギ花粉合併喘息の患者に舌下免疫を行う事で花粉症の症状だけでなく喘息症状も改善し、気道抵抗まで改善することを中村橋いとう内科クリニックの院長である伊藤が獲得した科研費で順天堂大学の喘息グループが研究・報告しています。
(Ueda S. et al. Biomolecules. 2022. DOI: 10.3390/biom12040518)
シダキュアの供給について
多くの患者さんは「もっと早くやれば良かった」というほど効果が期待できます。
しかし、製造元の想定を上回る需要が生まれたことによって舌下免疫療法に使用するシダキュアという薬が不足してしまい、2023年は新規にスギ花粉の舌下免疫療法を開始することが難しい状況になってました。
シダキュアを作るには材料となるスギ花粉が必要であり、かつ特許の関係で集めたスギ花粉を一度ヨーロッパに送って製品化してもらった後に輸入しないため、すぐに生産量を増やすことができないようです。
2023年は花粉の飛散量が多かったため、シダキュアの供給が安定し、多くの患者さんが新規に舌下免疫を開始することができると良いですね。