アスピリン喘息
当院に通院する喘息患者さんの増加に伴い、アスピリン喘息の方も増えてきました。
アスピリン喘息の方は注意する点が普通の喘息と異なるため、今回のブログではアスピリン喘息について記載することにしました。
アスピリン喘息とは
アスピリンを代表とするるシクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用をもつ非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)によって喘息発作が誘発されるタイプの喘息の事をアスピリン喘息と言います。
古くはアスピリン喘息(aspirin-intolerant asthma : AIA)と呼ばれていましたが、近年は国際的にaspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)やNSAIDs-exacerbated respiratory disease (N-ERD)と呼ばれるように名称が変化しています。
鼻茸を伴う好酸球性副鼻腔炎を高率に合併するため、嗅覚障害を伴う喘息の方はアスピリン喘息の鑑別が必要です。
また、好酸球性中耳炎(約50%)、好酸球性胃腸炎(約30%)、異形狭心症様胸痛(10%)を認めると言われています。
アスピリンはピリン系薬剤ではない!
ピリン系薬剤というのはピラゾロン構造(ピラゾロン誘導体やピラゾリジン誘導体)を持つ解熱鎮痛剤のことを指します。
ピリン系薬剤には解熱作用がありますが、消炎作用がありません。
アスピリンは「ピリン」とつきますが、ピリン(ピラゾロン)構造を持っていないため非ピリン系となります。
アスピリン(Aspirin)の名称は、「アセチル(Acetyl)」の「A」、シモツケソウの樹液に含まれサリチル酸と構造が同じ「スピール酸(Spirsaure)」の「Spir」、化合物の語尾によくつけられる「in」を組み合わせて作られています。
このため、ピリン系の「ピリン」とは全く関係なく、解熱作用だけでなく鎮痛作用もあります。
ちょっとややこしくて間違えやすいですね…
解熱鎮痛剤に注意!
アスピリン過敏症の誘発物質として、解熱鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)があげられます。
COX-1阻害作用が強いアスピリン、インドメタシン、イブプロフエン、アミノピリンなどが特に強い反応を示します。
選択的COX-2阻害薬であるセレコックスは安全に使用することができます。
また、注射薬の無痛化剤として使用されるベンジルアルコールも誘発物質であることが強く疑われます。
湿布薬や塗り薬にも非ステロイド性抗炎症剤が含まれるものがあるため注意が必要です。
湿布薬の中ではMS冷シップと温シップは比較的安全とされています。
喘息の治療でも注意!
アスピリン喘息で問題となるのは、それとは知らずに対応すると致死的な大発作を招きやすく、医療事故につながる可能性が高いことです。
アスピリン喘息の治療で最も注意すべき点は、各種静注薬、特に静注用ステロイドの急速静注で発作が悪化しやすいことです。
静注用ステロイドにはコハク酸エステル型(サクシゾン、ソルコーテフ、水溶性プレドニン、ソルメドロール)とリン酸エステル型(水溶性ハイドロコートン、コーデルゾールなど)があります。
アスピリン喘息は特にコハク酸エステル構造に潜在的に非常に過敏であり、それらを急速に静脈注射することは喘息発作の増悪を招く危険があるために禁忌とされています。
成人喘息を見た場合、アスピリン喘息かどうかを的確に判断する事が極めて重要であり、アスピリン喘息と診断された場合はステロイドの急速静注と塩酸ブロムヘキシン(ビソルボン)吸入は避けなければなりません。
食品添加物にも注意!
ここで注意を要するのは、食品添加物です。食品には、乳化剤や凝固剤、合成保存剤、殺菌剤、酸化防止剤、調味料、甘味料、合成着色料、漂白剤など多数の物質が添加されており、吟味する必要があります。
中でも、合成着色料の食用黄色4号(タートラジン)と防腐剤の安息香酸ナトリウムは、アスピリン過敏症の誘発物質であることが確立されています。
黄色4号は、チョコレート色、コーヒー色、ココア色、金茶色、ひき茶色、あずき色、たまご色、オレンジ色、トマト色、メロン色などに配合されていて、その配合比も高いです。
日本における内服負荷試験の結果では、タートラジンで40%、アスピリン内服で100%、同吸入では73%が陽性を示しています。
次に、誘発物質であることが強く疑われるものに前述のベンジルアルコール(食品の香料)、パラベン類(保存料)、黄色4号以外のクール系アゾ色素(食用黄色5号、赤色2号、赤色102号)があります。
また、自然界の植物でも柑橘系の果物やキュウリ、トマトなどの野菜、ハーブ、カレー粉などの香料にはサリチル酸化合物が含まれ、誘発物質の可能性があるためにアスピリン過敏症の人は気をつける必要があります。
アスピリン喘息の診断方法は?
アスピリン喘息は非アレルギー性の機序で起こるため、アレルギー検査では診断する事ができません。
診断するためには入院の上で実施するアスピリン負荷試験が必要です。
アスピリンや食物負荷試験が可能な施設は国立病院機構相模原病院などアレルギー診療に強い施設に限られています。
関連病院が複数ある順天堂大学でも、お茶の水にある順天堂醫院しかアスピリン負荷試験を行う事ができません。
このため、当クリニックでアスピリン喘息を強く疑った場合には順天堂醫院を紹介させて頂くことになります。