タバコの害について
タバコは「百害あって一利なし」とよく言われますが、どんな害があるのか?ということを知らない人は少なくありません。
私は順天堂医学部の1年生に「医学生・医療者であるという自覚と健康-医療従事者が知っておくべきタバコの知識-」という講義をしていたことがあったので、今回はタバコの害についてのブログを記載しました。
寿命が短くなる
2024年12月にタバコ1本吸う毎に20分寿命が短くなるという内容の論文が英国から発表されました。
The price of a cigarette: 20 minutes of life?
DOI: 10.1111/add.16757
もちろん背景によって短くなる寿命にはバラツキがあり、1本吸う毎に男性は17分、女性は22分寿命が短くなると報告されています。
また、喫煙によって総寿命とほぼ同じ数の健康寿命も失うことが2020年に報告されています。
Mixed evidence for the compression of morbidity hypothesis for smoking elimination—a systematic literature review
https://doi.org/10.1093/eurpub/ckaa235
喫煙者の中には「俺は太く短い人生で良いんだ!」と主張する人が居るかもしれませんが、呼吸が苦しく不健康な状態で生きる期間が長く続く事も想定すべきだと思います。
タバコの害は周囲にもおよぶ
タバコの主流煙には発がん性のある化学物質が約70種類含まれています。
副流煙にはニコチン、一酸化炭素、発がん性物質が主流煙の数倍含まれます。
つまり周囲の人もかなり迷惑を被っているのです。
喫煙者の衣服や毛髪等に付着したタバコ煙中の粒子状物質から揮発するガス状成分(タバコ臭)を吸入させられることを三次喫煙(サードハンドスモーク)と呼びます。
吸っている本人は気づかないかもしれませんが、吸わない人にとっては喫煙者が近づいてきただけで喫煙者の存在に気づきます。
私が「診察室でタバコの話題をする=あなたはタバコ臭いですよ」ということだったりします。
タバコの害は色々な年代にも影響する
幼少期に親が喫煙している家庭で育った子供の呼吸機能は低下します。
副流煙やサードハンドスモークが原因です。
それだけではありません。母親が妊娠中に、喫煙していると生まれてきた子供の呼吸機能が低下し、COPDのリスクが増すことが2015年のLancetで報告されています。
「養生訓」にもタバコの害が記載されている
たばこの害については貝原益軒(1630-1714年)が書いた「養生訓」の烟草附でも適切に記載されています。
「たばこは、近年、天正、慶長の比、異国よりわたる。淡婆姑(たんばこ)は和語にあらず。蛮語也。…中略…。烟草は性毒あり。煙をふくみて眩ひ倒る々事あり。習へば大なる害なく、少は益ありといへ共、損多し。病をなす事あり。又、火災のうれひあり。習へばくせになり、むさぼりて後には止めがたし。事多くなり、いたつがはしく家僕を労す。初よりふくまざるにしかず。貧民は費(ついえ)多し。」
上記のようにタバコは病気のリスク、中毒性、火災のリスク、金銭的な損失などがあるため、最初から吸わない方が良いといった内用が記載されています。
「タバコ」と「たばこ」の違い
タバコは戦国時代末期にポルトガルから日本に伝来したもので、ポルトガル語の“tabaco”に由来しています。同時期にもたらされた外来語のカステラやボタンと同様に多くの科学者はカタカナ表記の「タバコ」を用いています。
一方、日本政府は古くから「たばこ」というひらがな表記を用いていています。条約や法律もひらがな表記なので、これらからの引用部分はそれに従っています。
特にタバコ産業は「日本に根付いた文化である」ことを強調する意図があるのでひらがなの「たばこ」を用いています。
なぜ害があると解っているのに販売されているのか?
明治37年(1904年)に日露戦争の戦費調達のため、天皇名で「煙草専売法」が制定されており、政府の後押しでタバコが爆発的に普及されたという背景があります。
昭和59年(1984年)に「煙草専売法」から「たばこ事業法」へ変更になり、そこには「我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もって財政集住の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする」と記載されています。
つまり財政のために害があることを承知で販売しているのがタバコなのです。
タバコに税金がどれくらいかかっているかご存知ですか?
2024年4月の税率だと小売り定価580円の20本入りタバコ1箱あたり、消費税52.73円、国税152.44円、地方税152.44円(たばこ税合計304.88円)の税金がかかっているので、たばこ税だけで52.6%、消費税も含めると61.7%が税金ということになります。
タバコによって年間2兆円の税収が見込まれるため、国も害があることを承知で販売しています。
税金を多く払って健康を損なっているということに喫煙者は早く気づいて禁煙することをお勧めします。
電子タバコ・加熱式タバコなら良いのか?
近年電子タバコ・加熱式タバコによる肺障害の報告が増えています。
電子タバコ・加熱式タバコであれば寝タバコによる火事を起こしてしまうというリスクは減るものの、依存性や健康被害といった悪影響がある事には変わりありません。
順天堂のCOPDグループも電子タバコ・加熱式タバコの害についていくつか報告しています。
加熱式タバコの”IQOS”はマウス肺におけるアポトーシスと肺気腫を増強する
Exposure to the heated tobacco product IQOS generates apoptosis-mediated pulmonary emphysema in murine lungs
DOI: 10.1152/ajplung.00215.2021
電子タバコ液の成分であるプロピレングリコールは小気道上皮細胞に障害を起こす
Propylene glycol, a component of electronic cigarette liquid, damages epithelial cells in human small airways
DOI: 10.1186/s12931-022-02142-2
禁煙したい人はどうすべきか?
喫煙は「ニコチン依存症」という立派な病気です。2006年から禁煙治療が保険適応になりました。
当初はニコチンガムやパッチなどでニコチンを補充する禁煙法が治療の主流でした。2008年に承認されたバレニクリンを用いて禁煙の離脱症状やタバコに対する切望感を軽減し、喫煙による満足感を抑制するという治療法が可能になったため、禁煙達成率が上昇しました。
しかし、2021年以降ファイザー社からの出荷停止が続いているため、2025年1月現在でも使用することができません。出荷再開の目途は全く立っていないようです。
国内の禁煙外来ではジェネリックの承認が出ていないため処方することはできませんが、海外通販であれば海外で製造されたジェネリックが購入できるようです。
また、禁煙達成率は低くなってしまいますが、ニコチンガムやパッチであればドラッグストアでも市販化されています。
現時点で喫煙している方はこのブログの記事を読み返してタバコの害をしっかりと学び、ご自身の努力で禁煙することをお勧めします。
【注】当院では禁煙外来は行っていませんので、希望される方は他院をあたってください