喘息患者の部屋掃除はどうしたら良い?
開院して2年ちょっとが経過し、お陰様で自分の専門である喘息患者さんが増えてきました。
喘息治療で症状が良くなっても呼気一酸化窒素(FeNO)がなかなか正常化しない患者さんがたまにいます。
FeNOはアレルギーによって気道炎症が起きていると高値になり、FeNO高値の喘息患者は将来的に呼吸機能が低下することが知られている検査です。
そして、FeNOが高値であるということは環境中に浮遊する何かしらのアレルゲンを吸い続けているといえます。
喘息治療によってアレルギー体質自体が変わるわけではないため、環境整備も並行して行う必要があります。
しかし、日常診療で何をどれくらい掃除すば良いのか?ということを具体的に説明するのは時間的に難しいのが現状です。
このため今回はどういった点に注意して環境整備をしていくと良いのかについて記載してみました。
FeNOについて記載したブログはこちら👇
呼気一酸化窒素濃度と呼吸機能低下
ハウスダスト、ダニ対策
喘息患者のうち、ダニにアレルギーがあると言われる人の割合は結構高いです。
アレルゲン検査の項目として検査されるチリダニ科のヒョウヒダニは卵→幼虫→前若虫→後若虫→成虫と変態し、卵から成虫になるまでに要する期間は15~20日です。
このことから掃除する間隔は毎日である必要はなく、2週間に1度しっかり1 m2あたり20秒くらいかけて掃除機掛けを行うことの方が重要だったりします。
ダニの繁殖場所は畳やカーペットが多く、フローリングは繁殖しにくいため、フローリングの上に極力カーペットを敷かないということも対策になります。
布製のソファーもダニが繁殖しやすいため、ソファーをこまめに掃除機掛けする必要があります。
意外かもしれませんが、コンクリート住宅の方が木造住宅に比べてダニの数が多いことが知られています。また、上層階よりも1階の方が多いことが知られています。
ダニ対策で一番重要なのは寝具です。寝具中のダニ抗原が増えると感作リスクが増大することが知られています。
寝具をただ干すだけでは寝具内に死骸や糞が残ってしまうため、寝具を掃除機掛けする必要があります。
寝具の掃除機掛けが面倒な方は高密度線維性の布団カバー(防ダニ布団カバー)を利用すると手間が省けます。
防ダニ布団カバーの有効性は医学論文で証明されていますが、防ダニシートに関してはそれだけでは効果不十分という論文くらいしかないため、十分な対策とは言えません。
我が家は共働きで掃除がおろそかになりがちでしたので、子供が生まれたことを契機に防ダニ布団カバーに切り替えました。ちゃんと効果があるものは結構お値段が高いですが、寝具の掃除機掛けよりもタイムパフォーマンス(タイパ)は確実に良いです。病気になったときの医療費を考えればコストパフォーマンス(コスパ)も良いはずです。
※参考文献 気管支ぜん息に関わる家庭内吸入アレルゲン 現在の知見とその対策 編集 小屋二六、永倉俊和 1998 メディカルレビュー社
カビ対策
喘息患者のうちカビにアレルギーがある患者さんも結構多いです。
喘息患者を10年以上経過をみているとアスペルギルスというカビに対してアレルギーを持つ割合が増えることを報告しています。
化学物質過敏症のブログは下記👇
化学物質過敏症について
カビに対するアレルギーを既に持っている人はもちろんのこと、喘息患者さんはカビに対しても気を付けて部屋掃除をすべきです。
クラドスポリウム(クロカビ)やアルテルナリア(ススカビ)といった黒いカビは風呂場や台所といった水回りに多く発生します。他にも結露が生じる窓枠やアルミサッシなどにも発生します。
アスペルギルスは他のカビと違って高温かつ乾いたところでも増殖することができるため、人間の体に感染して病気を引き起こすこともある厄介なカビです。
カビは春季(4~6月)、秋季(9~10月)にピークとなる傾向がありますが、室内の環境によっては他の季節でも多くなってしまいます。
最近は住宅の断熱効果を高めるために高気密化が進んで快適な生活環境になってきていますが、実はカビにとっても快適で増えやすい環境になっています。
カビの胞子はハウスダストよりも軽いため室内で浮遊するアレルゲンの中で一番多く、エアコンの風と共に部屋中にばらまかれます。
5月後半になって暑い日も出てき始めましたが、エアコンをつける前に一度エアコンのフィルターや奥の方を確認してください。そこに黒いポツポツがついていたらそれはクロカビやススカビです。
エアコンのフィルターまでは自分たちで掃除することが可能ですが、奥の方は素人では手出しができないため業者に依頼する必要があります。
悲しいことに当クリニックのエアコンにもカビが観察されたため、今年のGWを利用して院内のエアコンを業者に清掃してもらいました💦
お金と時間がかかるので毎年という訳にはいかないと思いますが、何年かに一度は業者によるエアコン掃除を検討する必要があります。
ペット対策
犬や猫といったペットに対するアレルギーを持っている患者さんも結構います。
飼い始めたからには飼い続けてほしいと個人的には思っていますが、そのためには治療の継続だけでなく環境整備も必要です。
少なくとも寝室にはペットを入れないこと、ダニ対策で提示した頻度よりも多くしっかりと部屋掃除を行うことをお勧めします。
昆虫対策
うちは都会だから周囲に昆虫対策はいらないと思っている人も居るかもしれませんが、それは間違いです。
都会でもゴキブリ、ガ、チャタテムシなど昆虫のアレルゲンは結構多く存在します。
ゴキブリが好きなものは暗闇、隙間、油、ジメジメした湿気…つまり油が飛び散ったまま掃除が行き届いていない台所です。
海外と比べて日本はゴキブリのアレルゲンが少ないと言われていますが、台所掃除をちゃんとしていないと増えてしまうため注意が必要です。
ガも屋外から灯りに誘われて窓のそばにやってきて網戸などに羽についた鱗粉をばらまいており、日本では重要なアレルゲンの一つです。
チャタテムシは古い本を久しぶりに開いたときにちょろちょろと動き回って見える白い小さな虫です。このため、通称「本シラミ(booklice)」と言われます。たまにしか開かない本がたくさんある方は注意が必要です。
このように喘息患者さんは自分が反応してしまうアレルゲンに留意した部屋掃除をする必要があります。
掃除をすることによって症状が悪化してしまわないように、必ずマスクと換気を十分に行った上で掃除をしください。