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RSウイルスワクチンについて

[2025.02.23]

2024年に2つのRSウイルスワクチンが使用可能になりました。このため、今月の「いとしんぶんVol.18」と院長ブログでRSウイルスワクチンについて記載してみました。

 

RSウイルスとは

RSウイルスのRSはRsepiratory Syncytial(呼吸器の合胞体)の略です。

ウイルスが呼吸器細胞に感染し、隣接する細胞の細胞膜を融合させて多核巨細胞様の合胞体を形成して急性呼吸器感染症を発症させることが名前の由来となっています。日本では秋から春にかけて流行します。

RSウイルスによる感染症は乳幼児に多くみられ、生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%がRSウイルスに感染すると言われています。

感染力や増殖力は強く、飛沫と接触の両方で感染し、発症前の潜伏期から症状消失後1~3週間までといった具合にかなり長い期間にわたって感染力があるといわれています。

アルコール消毒は有効ですが、眼や鼻の粘膜からも感染を起こすために口と鼻を覆うマスクだけでは防ぎきれません

RSウイルス感染の症状

乳幼児の場合

初感染の場合、発熱、鼻汁などの上気道症状が出現し、通常は7〜12日程度で自然に軽快します。

約20〜30%で気管支炎や肺炎などを合併することがあり、入院が必要になることもあります。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50〜90%はRSウイルスが原因と言われています。

乳幼児突然死症候群につながる無呼吸が起きやすいという報告もあるため注意が必要です。

生後6か月未満の乳児、早産児や生後24か月以下で免疫不全、心疾患、肺疾患などの基礎疾患を有する乳幼児は特に注意が必要です。

年長児や成人の場合

年長児や成人における再感染例では重症化は少ないですが、基礎疾患に喘息がある場合は症状悪化につながることがあります。

高齢者や基礎疾患を有する成人、高齢者施設に暮らす成人については重症化のリスクが高いです。

例えば、喘息は2~3.6倍、糖尿病は2.4~11.4倍、冠動脈疾患は3.7~7.0倍、COPDは3.2~13.4倍、うっ血性心不全は4.0~32.2倍入院が必要なほど重症化してしまう比率が高くなることが報告されています。

診断方法

呼吸器分泌物よりRSウイルスを分離・同定するか、抗原迅速診断キットにより診断します。なお、抗原迅速検査の保険適用は、入院中の患者、1歳未満の乳児、バリビズマブ製剤適応患者のみが対象です。

小児科ではない当院ではRSウイルスの検査をすることはできません。

成人では保険適応外であるため研究を兼ねて検査をしている医療機関でないと持っていない情報ですが、高齢者は抗原検査陽性になりにくくPCRでないと検出しにくいようです※。

※2024年の講演会で国立国際医療センターの放生先生に教えて頂きました。

治療法

特異的な治療法はなく、対症療法が中心です。このため予防が重要です!

予防法

1) モノクローナル抗体製剤

RSウイルス感染による重症化リスクの高い新生児、乳児が対象になります。

バリビズマブ(シナジス®︎)ニルセビマブ(ベイフォータス®︎)があります。

バリビズマブは感染流行期に毎月1回筋肉注射します。

ニルセビマブは生後初回の感染流行期に1回、生後2回目の感染流行期にも1回追加で筋肉注射します。

2) RSウイルスワクチン

国内で接種できるRSウイルス感染症を予防するワクチンには2種類あります。

アレックスビー®は成人のRSウイルス感染症による重症化予防として使用され、60歳以上の成人のほか、重症化リスクの高い50〜59歳も接種対象となっています。

アブリスボ®は、60歳以上の成人への重症化予防のほか、妊婦に接種を行うことで、新生児および乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防もできるワクチンです。

商品名

(国内販売開始)

アレックスビー®

(2024年1月)

アブリスボ®

(2024年5月)

ワクチンの種類

不活化ワクチン

不活化ワクチン

対象

・60歳以上の成人

・50歳以上で重症化リスクの高いと考えられる人*

・妊娠24~36週の妊婦

・60歳以上の成人

接種回数

1回

1回

接種量・方法

0.5ml 筋肉注射

0.5ml 筋肉注射

費用

1回約26,000円

(施設により異なる)

1回30,000~38,000円

(施設により異なる)

*50歳以上のRSウイルス感染症が重症化するリスクが高いと考えられるものとは、以下のような状態のものを指します

 ・慢性肺疾患、慢性心血管疾患、慢性腎臓病または慢性肝疾患・糖尿病・神経疾患または神経筋疾患・肥満

ワクチンの効果

60歳以上の成人に対するワクチンの効果については、アレックスビー®を使用した国際共同第Ⅲ相臨床試験では、ワクチン接種後6〜7ヶ月の追跡期間で、RSウイルス関連下気道疾患を82.6%予防しました。

Papi A, et al. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):595-608.

アブリスボ®を使用した国際共同第Ⅲ相臨床試験では、ワクチン接種後平均7ヶ月の追跡期間で、少なくとも2つの症状を伴うRSウイルス関連下気道疾患を66.7%、3つ以上の症状を伴うRSウイルス関連下気道疾患を85.7%予防しました。

Walsh EE, et al. Efficacy and Safety of a Bivalent RSV prefusion F vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023 Apr 20; 388(16): 1465-1477.

どちらも最近市場に出回ったばかりのワクチンであるため、予防効果がどれくらい持続性するのかについてはまだ追跡調査中ですが、現時点で少なくとも2年は効果が持続しているようです。


妊婦へのワクチンの効果については、アブリスボ®の国際共同第Ⅲ相臨床試験において、妊娠24〜36週の妊婦にワクチン接種を行うことにより、重度のRSウイルス関連下気道感染症について、生後90日以内で81.8%、生後180日以内で69.4%予防しました。

Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023 Apr 20; 388(16) :1451-1464.

妊娠28〜36週に接種を行なった方が、より有効性がより高い傾向が認められています。生後180日以降の有効性はまだわかっていませんが、妊娠中に接種をすると生まれてくる赤ちゃんにRSウイルスに対する免疫を約半年間プレゼントすることができるという点が非常に頼もしいワクチンです。育児になれるまでの半年間RSウイルス感染症を起こしにくくなるのは親としても助かると思います。

 

どちらのワクチンも現時点では助成がないため高価ですが、効果も高いワクチンです。

実際、国際的なCOPDのガイドライン(GOLD)や国際的な喘息のガイドライン(GINA)ではインフルエンザワクチン、新型コロナワクチン、肺炎球菌ワクチンよりもRSウイルスワクチンの推奨度は高い位置づけになっています。

アブリスボ®は抗体製剤と違って赤ちゃんに痛い思いをさせないですみます。感染流行時期である夏~冬にかけて出産予定の妊婦さんはアブリスボ®の接種を検討しては如何でしょうか?

また、感染流行時期に子守などで乳幼児と接する60歳以上の方はアブリスボ®よりも値段が安いアレックスビー®の接種を検討してみてはいかがでしょうか?

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